笑説は事実より喜なり

笑説家 ヤマウチツヨシ/岡本太郎氏の『用心深く、いや臆病に今までの使い古されたパターンをなぞって何になるか』という言葉に感銘を受け、使い古されてないパターンのブログはじめました。

【ゾッとする話】Google検索

 

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あなたは運命の出会いを信じますか?

時として訪れる運命の出会い。それは偶然なのか、それとも必然か。 その出会いは、今後の人生を大きく変えるきっかけになるのかもしれません。

しかし、運命を受け入れられず逃れようとした瞬間に、人は奇妙な世界の扉を開けてしまうのかもしれません。

 

 

Google検索』

 

2016年1月2日。新年早々、あんな凄い出来事があるとは思いもしなかった。あんな衝撃的な出会いをすることは二度ないだろう。

あの日、俺は朝から中学校の同級生たちを母校に呼び出していた。それは3月に予定している自分の結婚式で仲の良い同級生たちと一緒に写った「今と昔のビフォーアフター」みたいな写真を撮りたかったから。

いま思えば、あの日は朝から"良いこと"だらけだった。

去年から撮影を計画していたが、なかなか友達との予定が合わず、もう撮影は諦めかけていた。 しかし、いきなり1月2日に皆の都合がついたのだ。家庭を持っている友達ばかりなので、新年早々会えることになったのは奇跡に近い。

さらに撮影日の天気予報は雨だったにも関わらず、当日は素晴らしいほどの晴天。

そして、肝心の写真撮影。

撮影は美容師をやっている友人のイマムに頼んでいた。 彼は仕事上でカメラも扱う事が多いため、いい写真を撮ってくれるだろうと撮影をお願いをしていたのだが、彼も同じ中学の同級生だ。 できれば一緒にフレームの中で写ってほしかったが、撮影者がいないと話にならない。だからそこは諦めて彼に撮影を続けてもらっていたら、学校の中から知らない先生が近づいてきた。

「君たちは何をしてるんだ」と最初は俺たちを不審者扱い。

しかし、事情を説明するとすぐに状況を理解してくれて「この学校のOBなら協力しましょう。私が写真撮りますよ」と、快く撮影まで行ってくれたのだ。

しかも、イマムが撮った写真より綺麗に撮れている。何だコイツは。

たまたま近づいてきた先生に頼んだのに、何だコイツの才能は。

これが俗にいう『「何だよこのおにぎりタンクトップは…」とか思いながらも、純朴なヤツなんで優しく接していたら、去り際に素敵な油絵プレゼントしてくれて「えっ…キヨシさんって、まさかあの山下清先生?」みたいな野に咲く花のように状態』ということに気づいた人は、もちろん俺以外に誰もいなかった。

とりあえずお礼に各自持ち合わせていたオニギリを清先生に渡すと、先生はオニギリを頬張りながらタンクトップに着替えるため体育館へ一旦帰っていったのだが、もちろん戻ってくる前に捲いてやった。

それにしても今日はなんかとても良いことが続いてる。

そしてこの後にもっと凄い運命の出会いがあるんだ・・・

 

撮影も終わり一息ついていると、誰かが「せっかくの新年だから皆で初詣に行こうぜ」と言いだした。それは名案だとなり、そのまま近くの神社に初詣に行くことに。

神社は新年早々だけあって、人がもの凄かった。参道から神社を埋め尽くす人混みをかき分け、簡単にお参りを済ませると、参道の横にお店を構える老舗のお茶屋さんに甘酒を買いに行った。

寒空の下、温かい甘酒が心にスーッと染み渡る。

店の前に置いてあった長椅子に一人分ほど座れる場所ができたので、そこに友達のケンタロウが座った。 他のメンバーはその長椅子の近くに立ったまま談笑。

他愛もない話で盛り上がっていると、俺は何か視線を感じた。

ふと横に目をやると、そこに一人の"お婆ちゃん"が立っていた。

綺麗に着飾った身なりのお婆ちゃんだからひときわ異彩を放っている。

そのお婆ちゃんは俺たちのすぐ近くで、手に甘酒のカップを持ったままずっとこっちを見ている。お婆ちゃんの視線の先を確かめると、そこには長椅子に座るケンタロウがいた。

俺は悟った。そうか、お婆ちゃんは椅子に座りたいんだ!

体の半分は優しさで出来ているバファリン俺は、すぐお婆ちゃんに寄り添い、そしてケンタロウに言った。

 

「おいケンタロウ!お婆ちゃんがずっと立ってるじゃないか!座らせるんだ!なんで気づかないんだよ!なんでそんなに鈍感なんだよ!お前はあれか!名探偵コナンの刑事たちか!小五郎の代わりにコナンが後ろで話してんだよ!なんで誰も気づかねーんだ!よく見ろよ!小五郎の唇が一切動いてねーだろ!話せるわけねーだろ!いっこく堂以外無理だよ!むしろいっこく堂スタイルで語る必要がねーだろ!てゆーか最近のいっこう堂痩せすぎなんだよ!心配だよ!いや待てよ、そもそも殺人現場に簡単に子供たちを入れるな!おいコナン!テメーどんだけ殺人事件に遭遇してんだよ!死神じゃねーかオイ!お前は家から一歩も出るんじゃねーよ!そういうことだぞケンタロウ!鈍感な奴はモテないぞ!わかったか!はい、お婆ちゃん、コチラへどーぞ!」

 

と、声が遅れて聞こえたにも関わらず、すぐに状況を理解したケンタロウは立ち上がろうとしたらお婆ちゃんが言った。

 

「違うのよ。座りたくて見ていたんじゃないの。あなたは熊本の方?」

 

俺の腹話術は一体何だったのか。

 

ケンタロウが「今は東京に住んでるんですけど、出身は熊本です」と答えると、「やはり東京の方ね。お仕事は何をさせている方なの?」とお婆ちゃん。

次に飛び出したのはケンタロウ渾身のギャグ「僕、芸能界で働いてるんですよ~」。

くそつまらないボケだ。よく新年早々そのフレーズで勝負した。感動した。その勇気にはお年玉をあげたい。

もちろんお婆ちゃんはクスリとも笑いもしなかったが、ものすごい勢いで話に食いついてきた。

お婆「ねえ、どこの事務所の方?」

えっ、もしかしてこのお婆ちゃん、芸能関係の人なのか?

見た目もちょっとアパホテルの社長っぽいし、もしかしたら凄い人なんじゃないかと思える話し方・・・

 

まさかジャニーズのメリーさんかジェリーさんかマッチさん!?

 

SMAPの後継者選びに熊本にやってきて"熊本の長瀬智也"と呼ばれ、ローカル雑誌「NO!」の女子高生が選ぶ「卒業して欲しくない男 第一位」に選ばれたMr.ベストノットグラデュエーション二ストのケンタロウくんに猛烈スカウトなのか!?

ケン「すいません嘘です。アパレル関係の仕事してます」

即修正しやがった。そらそうだ。これはビッグオファーの可能性もあるからね!

お婆「あらそうなの。でもね、貴方は凄いオーラが見えるわ。熊本でこんな人なかなかいないもの」

 

ここで話を横で聞いていた俺たちはニヤニヤし始める。

 

おっとこれはもしかして、変な人に引っかかっちゃったんじゃねーのかと。

 

お婆「あなた熊本の高校はどちら出身?」

ケン「濟々黌です」

お婆「あら、やはり濟々黌なのね。それにしても凄いわ。今までいろんな濟々黌の人見てきたけど、こんなオーラがある人みたことないわ」

 

ほう、濟々黌高校だとオーラがあるんだな。

その中でも群を抜いてもの凄いオーラがケンタロウからは放たれてるのか。

 

お婆「あなた今のアパレル関係の仕事をずっと続けなさい。もの凄い大成するわ」

 

ケンタロウはメッチャ褒められてた。本人も別に褒められてるんで悪い気はしないっぽい。お婆ちゃんはケンタロウを褒めるだけ褒めちぎると、次は隣にいた上原という友達に話しかけた。

 

お婆「あなたはお仕事は何をされてるの?」

上原「僕JAで働いてます」

お婆「なんでJAで働いてらっしゃるの?」

上原「なんでって特に理由はないですけど。高校卒業してからずっと働いているんで」

お婆「あなたは夢はお持ちじゃなかったの?」

上原「夢とかなかったですねー。だからJAで働いてるのかもしれません(笑)」

お婆ちゃんは凄い驚いた顔をした。

お婆「なんで夢がないのよ!貴方も濟々黌でしょ?」

上原「いや、僕は鎮西です」

お婆「あー鎮西かー。だからね(納得顔)」

 

 

だからなんかーーーーーい!!!!

 

鎮西だったら納得かーーーーい!!!!

 

鎮西OBは夢ないんかーーーーい!!!!

 

 

待て待てお婆ちゃん、それは偏見だよ。

鎮西高校卒業生には、朝日健太郎もいるじゃないか!

いまはダンスコースもあるんだよ!凄いオシャレな学校だよ!制服も可愛いよ!

そんな言い方すんなよお婆ちゃん!

 

若干落ち込む上原。でもお婆ちゃんの起死回生のフォローが入る。

 

お婆「でもね、あなたの話してみたら、わかったわ。今の仕事はもの凄く合ってるわ」

 

やったな上原!褒められたよ!

夢がないからなんとなく就職した会社がお前には合ってるんだ!

よかったじゃないか!夢があったら、それを追いかけてたら、絶対失敗したってことだぞ!

よかったじゃないか!高校卒業してから同じ職場一筋で16年間も働いてるなんて凄いぞ!

絶対に合ってるんだよその仕事が!よかったな夢がなくて!

なんだかんだで褒めらた(はず)の上原の次は、俺に話しかけてきた。

 

お婆「あなたお名前は?」

俺「ヤマウチツヨシです」

お婆「高校はどちら?」

俺「熊工です」

お婆「あらそうなの。何科でいらっしゃった?」

俺「土木科です」

お婆「お母さんの名前教えてくださる?」

俺「えっ、母ですか?福代です」

そしてお婆ちゃん、ちょっと考え込む。

お婆「あなたね、何か夢があるでしょ?やりたいことがあるでしょ?」

俺「はい。まーありますね」

お婆「あなたはその夢を追いかけなさい。追いかけたら必ず成功するわ。必ずよ」

 

なんだこのお婆ちゃん、スゲー嬉しいこと言ってくれるじゃんか!

そんな感じでそこにいた友達全員がそのお婆ちゃんに質問されてアドバイスをもらった。

質問の内容はそれぞれで、仕事・出身高校あるいは中学校、家族構成、親の名前、子供の名前など、その相手によって変えてくる。

とにかく話の間の使い方とか、言葉の選びのセンスとか、質問の内容とかも相手によって違うのが、やけに説得力がある。

別の友達なんか、「あなたは今年月収が10倍にあがる可能性があるわ。でもね、もう今日からライバルたちは走り出してるわよ。あなたはどうするの?」とか、すげー言葉のチョイスが秀逸で響く。

最初は半信半疑どころか無信全疑だった俺たちだが、状況が変わってくる。

 

「この人ってもしかして本当にスゲー占い師なんじゃねーか・・・」

 

そうみんなが思い始めた時、もう一つ凄いことに気がついた。

俺たちは六人ぐらいでいたんだけど、一度しか話していないのに全員の名前を完璧にフルネームで覚えているのだ。

俺達の名前はおろか、質問されて答えたことは一回で全部記憶しているのだ。

一語一句間違わず全員分を。

たぶんここにいる全員が覚えるの無理だと思う。初めてあった人の名前だけならまだしも、親の名前や子供の名前や家族構成や出身校を全部覚える事なんて。

そのあまりの記憶力の凄さに気づいた時に、お婆ちゃんの言葉はさらに説得力を増してきた。

俺はおもわず聞いた。

 

俺「お婆ちゃんよく覚えれますね?何歳ですか?」

お婆「私は75歳よ」

 

マジで驚愕した。75歳でこの記憶力かよ!

その後もお婆ちゃんは僕たちにたくさん助言してくる。

とにかく言い回しが上手で島田紳助ばりに弁が立つ。

次第に俺たちはお婆ちゃんの魅力に完全に引き込まれていた。

最後の方にはもう百信零疑に変わっていた。

俺たちの方から悩みを相談してアドバイスをもらってたくらいだ。

出会ってから三十分くらい話したと思う。

そして各自予定があったため、そろそろ行こうかとお婆ちゃんに別れを告げることにした。

みんながお婆ちゃんに感謝を伝えると、最後にこう言った。

 

「私はね、今日は家でゆっくりしているつもりだったの。でも神のお告げがあって今日ここにきたの。その理由はわかったわ。あなたたちに出会たことだったのね。あなた達に未来を伝えるためにここに呼ばれたんだわ」

 

そう言われた時、俺たちは誰一人疑っていなかった。だってたぶん本物の占い師だと思っていたから。

そうかお婆ちゃん、神のお告げがあってここにきて、俺たちにアドバイスをすることが今日の目的だったのか。

うん、お婆ちゃん、たぶんあなたは本物だよ。本当になにか見える人なんだろう。

江原啓之さんや美輪明宏さんみたいな選ばれし人なんだろう。

「ありがとうお婆ちゃん!新年早々とてもいい気分にさせられたよ!」

俺たちはお婆ちゃんに最大限のお礼を伝えて別れた。

 

車を停めていた駐車場へ向かいながら、みんなでお婆ちゃんの凄さで盛り上がる。

「マジで凄い!」「あれは本物でしょ!」なんて話していたら、一人いないことに気づいた。

そう、言い方変えれば「女子高生が選ぶ留年して欲しい男 第一位」の必ず大成する男・ケンタロウがいない。

振り返るとお婆ちゃんと二人で話しているではないか!

さてはケンタロウ、本気でお婆ちゃんの凄さに虜になってしまったんだな!

抜け駆けかよ!ずるいなおい!

まーしょうがない。あんな凄さを見せられたからな。

俺たちのお墨付きだよあのお婆ちゃんは!本物だからな!

ケンタロウはお婆ちゃんと会話を終えると、走って俺たちに追いついた。

すると上原が「ケンタロウ、あのお婆ちゃんに心酔したろ?」と語気を強めて聞く。

さすが「占い師が選ぶ夢がなさそうな男 第一位」の上原だ。

べた褒めされたケンタロウにヤキモチを妬いてるのだろう。

「いやいや、そんなんじゃないよ。お婆ちゃんが名前の漢字教えてって聞いてきたから名刺を渡して少し話してただけ」と答える。

「でも本当に凄いよねあのお婆ちゃん。最後に名前を聞いたら“みやた○○こ”て教えてくれたよ」

ケンタロウがそう言うと、ノードリーマー上原が「ねえ、あのお婆ちゃんってマジで凄い占い師なんじゃねーの?俺たち凄い人にたまたま出会ったんじゃねーの?」と言いだした。

いや、確かにそうかもしれない。誰もがそう思ってた、誰もが。

「ちょっと名前わかったけん検索してみよう!」

上原が携帯を取り出す。グーグルで検索する気だ。

本当に便利な世の中になったもんだ。携帯ひとつで疑問はすぐに解決することができるから。

「いや、本当にもしかしたら凄い人の可能性あるな」「超有名人かもしれんね」と盛り上がる俺たち。

なんか本当に今日は一日良いことだらけだなーなんて話ながら歩いていたら、上原が突然立ち止まった。

 

固まる上原。おい無夢原、なんで立ち止まってんだ?

 

「ちょっ、、、、これ、、、、えっ、、、、、」

 

皆が不審がる。どうしたんだ?

 

「あっ、いや大丈夫だ!59歳て書いてある!あのお婆ちゃん75歳て言ってたもんね!」

 

一人で話して一人で納得している。するとまた慌てだす。

 

「いや違う!これ2000年って書いてあるから絶対にそうだ!」

 

いやだから何を一人で騒いでるんだよお前は。そんなんだから夢がないんだよ。

 

「一体携帯に何が書いてあったんだよ」と俺が聞いた。

 

すると上原くん、顔色が真っ青になりながら、携帯を見せてくれた。

 

そこに書かれていたことに、俺たちは言葉を失った。

 

 

 

【熊本幼児遺体切り取り事件】2000年5月28日

熊本市で起きた、男児を生き返らせるためとして遺体をはさみで切るなどした事件で、死体損壊の疑いで逮捕されている自称超能力師、宮田○○子容疑者(59)は調べに対し「天言があった」と供述していることがわかった。 宮田容疑者によると男児の遺体は「真の呼吸は続いている。中から新しく生まれ変わる」という「巣ごもりの状態」で、皮膚をはげば復元できるとし、遺体をはさみで切って皮をはぐなどの方法をとったことについて「天言があった」と話し「警察のせいで邪気が入り、男児は亡くなった」としているらしい。 また、宮田容疑者は男児が亡くなる前、両親に病院に行かないよう、薬を飲ませないように指示をしていたとみられ、保護責任者遺棄致死の疑いも持たれているという。

 

 

 

 

 

人生で初めて背筋がゾッとした。

 

 

もちろん同一人物かはわからないが、出身地・名前・年齢・超能力者という点でここまで一致する人物はそういないだろう。

 

俺たちは立派な大人だから、まさか洗脳なんかされるわけないと思うじゃん。

そんな俺たちでもここまで引き込まれたお婆ちゃんの手段を振り返ってみる。

 

まずお婆ちゃんは自ら話しかけてこなかった。困ってるのかなと思って俺から話しかけた。 もしあの時に向こうから話しかけてきていたのならば、もう少し俺たちの警戒心が強くて状況は変わっていただろう。

次に、自分から「私は占い師だの超能力者だ」というような言葉は一切使わなかった。 ただ話の内容に引き込まれた俺たちが勝手に「この人凄い能力者じゃないのか」と思っただけである。

そして最後に、自ら連絡先を聞いてきたりとか勧誘してきたりとかはしなかった。

ここでなんか誘って来たりしたら、もう怪しいでしょ。でも誘ったりしなかった。 恐らくだけど、洗脳なんか絶対されない自信がある俺たちですらここまで魅了されたんだ。 もし何か悩み事を抱えていたりしている人だったら、すぐにこのお婆ちゃんの力を信じて頼りそう。

だからそういう人は、誘わなくても自分から連絡先を聞いてくるんじゃないかと。

そう考えると、ますますあのお婆ちゃんが恐くなった。

「本当に危なかったな・・・」なんてみんなで怯えていたら、ふと何かを思い出したかのような表情で立ち尽くす男がいた。

 

「あっ・・・」

 

そう呟くと、その男の顔色がみるみるうちに変わっていく。

 

立ち止まった男に俺が声をかける。

 

「おい、ケンタロウ!どうしたんだよ?」

 

男は振り絞るように声を出した。

 

 

 

「やべぇ、俺、電話番号書いてある名刺渡した」

 

 

【終】

先輩が語っていた夢の話

 

『君には無理だよ』という人の言うことを、聞いてはいけない。

 

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昔、俺が働いていた職場に"トモさん"という優しくて可愛らしい先輩がいた。

とても愛想が良く誰とでも仲良くなれる人で、職場の皆から「トモちゃん」と呼ばれてメチャクチャ愛されている人だった。その先輩と俺は同じ業務の仕事を担当することになった。

外回りをする移動中の車内はいつも二人だったから、毎日いろんな話をしていた。当時の俺は将来の夢や目標もなく、クラブに行っては飲んで歌って騒ぐだけが楽しみの生活だ。 先輩に話していた話題も、ほとんどが酒や女の子の事やライブの話ばかりだったと思う。年下のくだらない話でも、先輩は嫌な顔ひとつせずにいつも笑顔で聞いてくれていた。

そして、先輩はいつも俺に「夢の話」ばかりをしていた。

「ずっと追いかけてる夢があるんだ。凄い役者さんになりたくて」

家族や友達でもない職場のパートナーというだけの俺に、恥ずかしげもなく将来の夢を熱く語ってくれる。 「あのドラマのあのシーンが凄い」とか「あの映画のあの台詞がカッコいい」とか「あの女優のあの演技が凄い」とか、目をキラキラ輝かせながら演技の話をしていた。 将来のことなんて何ひとつ考えていなかった俺は、そんな先輩が羨ましかったが、それ以上に憎らしくもあった。

会話をするたびに先輩が大人に見えて、自分が子供のように思える。自分の弱さや虚勢を張って生きているのが見透かされてるような気がして、とても悔しかったんだ。

そして俺は、先輩の優しさにも甘え始めて、次第に態度も傲慢になっていった。

ある日、いつものように嬉しそうに夢を語る先輩に対して、俺は声を荒げてしまった。

 

「じゃあ熊本いないで早く東京行けばいいじゃないすか!こんなとこで熱く語っても意味ないでしょ!」

 

数日後、先輩は上司に会社を辞めると言った。

「君のおかげで東京に行く決心がついたよ!ありがとね!」と、アイドル顔負けのとびきりの笑顔で俺に別れを告げ、一か月後には会社を辞めて夢を追いかけに東京へと旅立った。

その当時の先輩は三十歳だったから「もう遅くない?今から大丈夫?結婚とか考えないの?」と心配したが、すぐに「まーどうせすぐ諦めて帰ってくるだろうな」と先輩の決断を軽く馬鹿にしている自分がいた。

凄く恥ずかしいことなのだが、当時の俺は"夢に向かって頑張っている人"を素直に応援することができない人間だったんだ。

 

あれから八年の月日が流れた。ふと、先輩のことが気になった。

 

東京に行く決断をした時に素直に応援できなかった後ろめたさもあった俺は、連絡することを躊躇した。向こうにもあまり良く思われていないかもしれない。

でも、俺は勇気を出して繋がるかもわからない先輩の番号に電話した。

「もしもし」

すぐに先輩の声だとわかった。

「トモさんですよね?山内ですけどわかりますか?」

「わかるよ!ツヨシ君だよね?元気してる?」

まるでタイムスリップしたかのようだった。昔と変わらない愛想の良さが、話し声だけでも感じ取れた。

「今度、東京に遊びに行くから会えませんか?」と聞くと「わかった」と言ってくれて、東京の喫茶店で再会することができた。

 

店に入りテーブルに着くと、先輩は「タバコ吸ってもいいかな?」と申し訳なさそうな顔で聞いてきた。

昔から煙草を吸っていたのかもしれないのだが、記憶が曖昧だったために吸ってない人だと思っていた。少し驚いたが、悟られないようにすぐ「大丈夫ですよ」と返事をした。

バッグからおもむろにマルボロを取り出し、慣れた手つきでタバコを吸いながら現状を話してくれた。

 

先輩は今もずっと役者として有名になるために頑張っていた。

 

話を聞くと、去年のNHK大河ドラマにも出演したらしい。そして今年は、北野武監督の映画「アウトレイジ3」の出演が決まって、撮影が終わったばかりだと嬉しそうに話してくれた。

あんな怖い人達ばかり出てる映画に一体どんな役で出るんだろう? キャバクラで働いてる人の役かな?とにかく好きな映画なんで凄く楽しみだ。

「少しずつだけど夢に近づいてるかな。八年もかかっちゃったけど。遠回りしすぎたからもう結婚できないかもね(笑)」

そう笑って話す先輩の表情は、あの頃とちっとも変わっていなかった。 唯一変わったことは、その話を聞く俺の感情だろう。

目を輝かせながら夢について熱く語る姿は、同性とか異性とか関係なく、とにかくカッコよかった。あの頃は先輩の話を馬鹿にして聞いていたが、今はただ尊敬の気持ちで真剣に耳を傾けていた。

そして、そんなトモさんの成功を心から願い、本気で応援したくなった。

 

ふと、NBAのレジェンドであるマジック・ジョンソンの言葉が頭をよぎる。

 


 

『君には無理だよ』という人の言うことを、聞いてはいけない

多くの人が、僕にも君にも「無理だよ」と言った 彼らは、君に成功してほしくないんだ なぜなら、彼らは成功出来なかったから 途中で諦めてしまったから だから、君にもその夢を諦めてほしいんだ 不幸な人は、不幸な人を友達にしたいんだ

決して諦めては駄目だ 自分のまわりをエネルギーであふれ しっかりした考え方を持っている人でかためなさい

自分のまわりを野心であふれ プラス思考の人でかためなさい 近くに誰か憧れる人がいたら その人に、アドバイスを求めなさい

君の人生を、考えることが出来るのは君だけだ 君の夢がなんであれ、それに向かっていくんだ 何故なら、君は幸せになる為に生まれてきたんだ

 

 

そう、俺はいつの間にか"夢に向かって頑張っている人"ほど応援できる人間になっていた。

それは多分、自分のまわりをエネルギーで溢れ、しっかりした考え方を持っている人で固めてこれたから。 それは多分、自分のまわりを野心で溢れ、プラス思考の人で固めてきてこれたから。

東京で夢に向かって頑張っているすべての友人達を心の底から応援してるし、尊敬してる。 だからもし、俺が夢に向かって進みだした時は、皆にも応援してほしいなと思った。

自分の成長に気づかされ、そして自分も頑張るぞという気持ちにさせてくれた東京での再会。

本当に大人になった今、先輩と話せてよかった。

 

1時間ほど話したところで、先輩は次の予定が入っているらしく、ここでお別れをすることになった。

テーブルのマルボロと伝票を手に取り会計へと向かう先輩。

ふと灰皿に目を向けると、すでに10本くらいの煙草がその役目を終え、無残な姿で横たわっていた。

「トモさん、かなりのヘビースモーカーなんだな」と少し驚きつつも、すぐに僕は先輩の後を追いかけた。

「トモさん何やってんすか。俺が誘ったんだから俺が払いますよ!」と言い伝票を奪おうとすると、「いーよいーよ気にしないで」と俺の手を払いのけた。

このままじゃいけないと思い、俺は今日一番の大きな声でこう言った。

 

 

「いや、俺は自分のルールがあるんです!女と後輩には絶対お金を出させないって!」

 

 

するとトモさんは一瞬黙った後、大笑いしながらこう言った。

 

 

「どっちも当てはまってねーじゃねーか!じゃあ俺、先に帰るよ!」

 

 

 

あ、本文と写真はまったく関係なく、トモさんって香川照之激似のおっさんですよ。

【世界のムチロー伝説】 最終話「嵐の前のうるささ」

  ▼第五話はコチラ▼

www.monoii.net

物語はいよいよ感動のクライマックスへ! あのスーパースターと出会う衝撃の結末が!?

【最終話】「嵐の前のうるささ」

 

久しぶりの日本を満喫しようと緊急来日したムッチーは、復帰戦でまさかのサイクルヒットを放つなど、ブランクを感じさせない大車輪の活躍だった。

仲間たちは、その活躍に大いに喜び、そして大いに笑った。 当の本人は、腹を抱えて泣き笑う仲間たちの姿を見て、とても悔しくて泣いていた。

しかし、落ち込んでばかりはいられない。 ムッチーは、尊敬するイチロー選手が日米通算3000本安打を決めた時のインタビューでこんな話していたのを思い出した。

 

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『僕は日米通算3000本安打を達成したけど、6000回以上の失敗があります。失敗から、たくさんのことを学んでほしい。』

 

そうだよ、失敗したからなんだ!俺はここから何度も立ち上がってきたじゃないか!

理不尽な暴力で張り倒されながらも、必ず立ち上がってきたじゃないか!こんな所で腐る男じゃないだろう俺は!

そう自分で自分を鼓舞したムッチーは、気持ちを新たに新生活をスタートすることにした。

 

日本に帰国した本来の目的を失ったムッチーが、まず初めにしたこと。

それは20歳の頃、水泳のインストラクターのアルバイトをしていた時の教え子(当時小学生)の女の子に連絡をすることだった。

 

このロリータコンプレックスの塊がああああ!!!!

 

ムッチー「いや、Facebookで友達だからねー」

 

知らねーよ!Facebookの友達はすべて友達だと思うなよ!!

 

「FBの友達大体本当に友達」って言えるヤツ、そんないねーだろーが!!!

 

そしてその教え子に会い、早速振られると次の行動に。

知り合いから「居酒屋の雇われオーナーをやらないか」と誘われる。

しかも新規店舗だ。

海外のアルバイト生活で身につけた調理テクを活かせるんじゃないかと少し乗り気だった。とりあえず店を見てみようと完成間近の店内に入ると、その店のカウンターテーブルの縦幅が15センチしかないことに気づく。

 

取り皿一枚置いたら何も置けねーじゃねーか!!!

 

立ち飲み屋でももうちょっとあるだろーが!!!!

 

で後日、その話はどうなったのか聞いてなかったんで連絡してみた。すると、

 

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しれっと交渉決裂していたが、なんかまたしても良いオファーを貰うっていうね!

なんかスゲーなおい!なんだその人脈!

でまた後日、鹿児島に何しに行ったのか聞いてなかったけど、もう帰ってきただろうと思って遊びに誘った。すると

 

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しれっと鹿児島でウミガメの卵を守るバイトしてたっていうね!

 

 

どこで見つけたんやそんな求人!!!!!

 

なんやその情報網は!!なんやその人脈は!!!

 

でまたまた後日、今何してるのか知りたくて連絡してみた。すると、

 

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しれっと東京に進出するっていうね!

 

もう行動が読めません!

 

でまたまたまた後日、とりあえず生きてるのか知りたくて連絡してみた。すると、

 

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しれっとアメリカに行けることになったっていうね!

 

何て男だ!もうこの男の行動は、俺じゃ監視できないだろうと悟った。

フーテンの村さんだよ君は。

それからアメリカに行ったであろうムッチーとは、しばらく連絡を取っていなかった。

 

でもふといつ頃帰ってくるのかが気になって連絡をしてみた。

すると、

 

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入国拒否されとるやんけーーーー!!!!!

 

なんやねんコイツ―ーー!!!!!

 

理由はこうだった。

 

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【悲報】あぶない売人と間違えられる。  

 

 

まさにクレイジージャーニーーーー!!!!!!

 

 

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『今夜のクレイジージャーニーは、道を歩いてるだけで人に殴られ、世界中を渡り歩こうとするが渡り歩けないで立ち往生する男・村山修平!』(本名ばらす)

 

 

ついに殴られるだけじゃなく、会っただけで逮捕されるまでの男に成り上がったのだ!

 

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ぶち込まれた牢獄はまさに、プリズンブレイクの世界だったであろう。

チカーノVSアジア連合軍(ムッチー&韓国人)。

同じように身の危険を感じた韓国人の男とは、何も言葉を交わさなくても意気投合したはずだ。

とりあえず無事に日本に帰ってきてくれてよかった。

ん?てか今バイトで名古屋って書いてあんな?今度は何してんだろ?

 

 

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しれっと嵐のコンサート会場で働くっていうね!

 

 

 

 

もうお前の人生と人脈って一体なんやねん!!!!!

 

なんで嵐のコンサート会場に入ってんだよ!!!!

 

 


『 人生がA・RA・SHI 』 歌:世界のムチロー 作詞:ヤマウチツヨシ

歩けば Yea!殴られ Ruu! パンチちょいと重いのは Boo!

That’s 重体 それでも日本に居られる そうさボクだけSuper tough

いま “歯痛” やな事あってもどっかで覚悟きめる 日本でやるけどいいでしょ? 治療に戻ったっていいでしょ?

帰国 早々!! いつの間にか(ビザが)切れてる 戻れないよ 誰も許可できない

世界中のビザを集めて あの国に MO・DO・SE!! MO・DO・SE!! 豪州

今日もみんなで言っちゃってる 「悲惨な男だ」って言っちゃってる

ボクだけいつも探してる でっかいビザとか違法探してる

Everyday!Everybody! まだまだ歯痛が止まらない

今から病院行けばいいじゃない Let’s get on Let’s get on Yea!

「すげー、(虫歯)ないです」 ブッ飛ぶように医者のアタマ突っ込め

「なん で やねん」 退屈だから Ah 刺激もほしいから

大きな国へ(アメリカ)行ってみよう

地元 ソウル!!ソウル!! の奴よ すぐそばにいて 離れないよ 他にアジアいない

拘置所のコリアン集めて 巻きもどせ JI・KA・N!! JI・KA・N!! for dream!!


 

そんな歌をコンサート会場で口ずさんでいたクレイジージャーニー・ムッチー。

すると奇跡的にバックステージ裏でまさかのジャニーさんに遭遇したのだ!

そしてジャニーさんが近づいてきて、ムッチーにこう話しかけてくれた!

 

 

『YOUは何しに日本へ?』

 

 

 

やかましーーーわ!!!!!!

 

【完】

p.s. 嵐の後の静けさを取り戻した彼は、いま東京で穏やかに暮らしております。近い将来にまた海外へ行くと思いますので、どうか殴りに行かないでくださいますようお願い申し上げます。

 

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【世界のムチロー伝説】 第五話「 YOUは何しに日本へ?」

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第五話「 YOUは何しに日本へ?」

人に殴られない代わりに悪魔に魂を売り渡してしまったであろうムッチーの海外生活だったが、まぁそれはそれで大正解だったであろう。

だって急に知らない人からいきなり殴られないんだから。

「打たれない」

そんな人間ならごく当たり前に回避できることが、日本にいる時のムッチーには、非常に困難だったのだから。

プロ野球のピッチャーなのかというくらい「打たれない」ことに魂を燃やす。

たしかに日本時代の防御率は最悪だ。

それを回避させてくれたのが海外生活。オーストラリアでノーヒットノーラン連発。

そんなノリに乗ってる大エース・ムッチーに、さらなる幸せが訪れる。

なんと、クラブで知り合ったかわいいカワイイ可愛い18歳の外国人の彼女が出来たのだ!

クソ野郎が!このロリコン野郎が!

羨ましいじゃねーか!てか女癖は日本の時から変わってねーなオイ!

キレイな街並み、可愛い彼女、そして平穏な暮らし。

こんなに沢山の幸せを手に入れたムッチーは、もうオーストラリアに永住したいと思っていたに違いない。

そんな順風満帆だったムッチーの生活に、ある悩みができた。

それは、いきなり襲ってくる「激しい歯痛」。

「何だそんなことかよ」って思うかもしれないが、彼にはとても苦痛の毎日だった。

恐らく虫歯だろう。でも病院に行きたくても仕事の都合上なかなか行けない。

そして何より医者に症状を説明するの大変だ。さらに医療費も高い。

いつ打たれるわからない恐怖に似たあの感覚。

突如、襲ってくる激しい痛みに怯えながら、苦しみながら悩んで過ごす毎日だった。

そんなある日、ムッチーの脳裏にある想いがよぎる。

「そうだ。これをきっかけに一度日本に帰国しようかな」と。

親友の結婚式でも帰ってこなかった男が、

毎日ナイスピッチングを繰り返している男が、

遂にその重い腰をあげ、日本に凱旋しようと決意したのだ!

苦い思い出しかない日本へ逆輸入。

帰国した瞬間、CAにぶん殴られるかもしれない。

帰国した瞬間、警備員に発砲されるかもしれない。

しかし、その恐怖を凌ぐほど、歯痛に苦しんでいたのだろう。

まぁいずれは日本に一度帰らなきゃと思っていたし、日本人の歯医者なら安心して治療してもらえる。

万全の状態に戻ってから、またオーストラリアへ戻ろうと。

そう決意したムッチーのオーストラリア生活は、やがて三年を迎えようとしていた。

 

日本への帰国の日。

 

可愛い彼女が、わざわざ自宅まで見送りに来てくれた。

なんて優しい子なんだと惚れ直すムッチー。

心配そうな顔でムッチーを見つめている彼女。

後ろ髪を引かれる思いではあったが、しばしの別れだ。

すぐ大好きなオーストラリアに戻ってくるんだから。

ここは男らしくカッコよくお別れを言わなければ。

「心配するな。しばしの別れだよ。すぐに戻ってくるから…」

「その時は…俺と…俺と…」

そう言いかけた時に迎えのバスがやってきた。

見つめあった二人は無言ではあったが、お互いが何を伝えようとしてるのは分かりあえたはずだ。

意気揚々とバスに乗り込んだムッチーは見送る彼女に手を振り、空港へと向かうのだった。

しかし、この先の地獄が待っていた。

 

彼は颯爽と日本行きのゲートに乗りこむ。

つもりだった。

 

しかし、入国審査官やいろんな職員に囲まれた。

不安が襲う。

違う…俺はテロリストなんかじゃないぞ!

エロリストだしロリコ二ストだけど、テロリストじゃないぞ!

すると入国審査官にこう告げられた。

 

『YOUのビザ切れてるじゃん。不法滞在ナウじゃん』

 

えっ?

そんなわけないでしょ。

 

『いや切れてるし。YOUもうオーストラリア二度と戻ってくんなよ!』

 

ちょっと待ってちょっと待って。何かの間違いだから、とりあえず一回家に帰らせて。

 

『いーや、待ちません。帰らせません。日本に帰れ。即強制送還です。バーイ』

 

 

終わった・・・

ビザが切れていることに気づかず不法滞在していた・・・

3年間有効だと思い込んでいたビザが実は2年分で、すでに切れていることに全く気付いていなかったのだ。

 

いやマジでやばいって!

 

だってアパートに家具やら洋服やら全部置いたままだよ!(シングルヒット!)

 

マジでオーストラリア戻れねーじゃん!!(ツーベースヒット!)

 

てか可愛いカワイイかわいい彼女と会えないじゃねーか!!!(スリーベースヒット!)

 

 

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世界の殴打製造機・ムチロー選手、復活!

 

NEWムチロー、顔じゃなく、心のヒット連発!

帰国前にいきなり三打数三安打!

しかも長打二本も含めて、サイクルヒットの可能性も匂わせつつ日本へ!

 

彼は泣いた。

強制送還の飛行機で涙を流した。

俺は何しに日本へ、、、、

 

俺は何しに日本へ帰るんだ!!

 

 

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やばいやばい。これは面白いことになりそうだ。

これは密着取材のやりがいがあるぞ!

 

 

帰国したムッチーを笑顔で迎えた取材班(俺たち)。

しかし、彼の顔に元気はなかった。

事情を聞いた取材班は、心から笑った。

慰める奴は一人もいない。本気で笑った。

流石それでこそ、取材班の知ってるムッチーだ!

最初も表情がすぐれないムッチーだったが、次第に落ち着きを取り戻し始めた。

「まあこうして友達に久しぶり会えたし、また頑張るか!」

しょうがないかと開き直ったムッチー。

とりあえず日本に帰国した本来の目的、「歯痛」の治療に行くことにした。

これでこの痛みともおさらばだ。

 

実家近くの歯科を訪れたムッチー。

とにかく先生に歯痛の症状を説明し、しっかり治療したいとの意志を伝えた。

快く承諾した先生は、入念な検査を始める。

隅々まで調べる。レントゲンも撮影するぬかりのなさだ。

しばし待ったのち、先生が笑顔を浮かべながら近づいてきた。

何で笑ってんだよ。

ははーん。さては、これから通いつめることになるだろう俺のことを、金づるとでも思っているんじゃないかな?

くそが!絶対にぼったくられねーぞ!

外国帰りをなめんじゃねーぞ!免疫はメッチャついてんぞ!

近くに着座した先生は、満面の笑みを浮かべたままムッチーにこう告げた。

 

 

 

 

「いやー凄いですねー。虫歯一本も見つかりませんでしたよ!(ニコッ)」

 

 

 

 

 

えええええええええーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!

 

 

うおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!!!

 

 

場外ホーーーーーーーーーーーームラン!!!!!!!

 

 

サイクルヒット達成!!!!!!!!!!

 

 

 

「先生、嘘でしょ?嘘だと言ってください!絶対虫歯あるでしょ!」

 

 

 

『いやー久しぶりに見ましたよー。こんな健康な歯は!(笑)』

 

 

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YOUは何しに日本へ!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

「じゃあ何で歯が痛いんですかー!」

 

先生も不審がる。なぜ虫歯じゃないことを喜ばない患者は初めてのことだ。

『いや、知りませんよそんなの』

そらそーだ。知るわけねーだろ。

ただの気持ちの問題だろ、気持ちの。

一体彼は何をしに日本へ帰ってきたのか?

神様は一体、彼にどんな結末を与えようとしているのか?

もうこれ以上、罰を与えないでくれ。

いや、でもやっぱまだ嵐が巻き起こる予感がするな・・・【続く】

 

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【世界のムチロー伝説】 第四話「ウェディングムービー ~激動の海外移住編~」

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【新章突入!】

【第四話】 「ウェディングムービー」~激動の海外移住編~

 

「あまり調子に乗ると担任の先生にボコボコにされ、首をしめられながら2階の窓から突き落とされそうになる―」

青白い部屋でビートたけしがナレーションしながら語ってくれそうなアンビリーバボー恐怖体験をしたムッチーの不遇の時代は、高校三年間まったく途切れることなく続いた。

教師からの執拗なワンマークによって繰り返される朝掃除と理不尽な暴力。

始めはオラついていたムッチーの精神も徐々に壊れ始め、教師の正拳はまるでジョジョのようにオラオラオラオラ突いていた。

この学校は甲子園常連の名門校だ。

アルプススタンドでの応援を夢見ていたムッチー。まさかスタンドにボコボコにされるとは思っていなかっただろう。

もういつ学校を中退してもおかしくない状況に陥っていた。

そんな時に支えてくれたのは、やはりクラスメイトだった。

「ムッチー、あんまり調子に乗るなよ。お前は自分に罪はないと思ってるかもしれないけど、俺が先生だったら間違いなく同じことやってるぞ…」

「ムッチー、鏡は持ってるよな?自分の顔を見てみろ。すげーイライラする顔してるぞ…」

自分のスタンドの能力に全く気づいていなかったムッチーに、友達たちは「客観的に見たムッチーの姿」を優しく説くことにより、少しずつ自分の愚かな才能に気づいていったのだ。

そしてムッチーは心を入れ替えた。堪え難きを耐え、忍び難きを忍んだのだ。

そして無事に高校を卒業。遂にこの支配から卒業したのだ。

 

ところが、だ。

卒業したところでムッチーの生活は何も変わらず、いつもボロ雑巾のようにボコボコにされていた。

そんな時、18歳の頃に家族旅行で訪れた中国の上海での記憶をふと思い出した。

『ああ、楽しかったなぁぁ・・・』

日本語で話しかけると人に怒られてばかりだけど、日本語を話せない状況にいた時は、みんな笑顔だったな。。。。

そしてふと思った。

『もしかして日本語話せない国なら、殴られないんじゃね?』

ここでムッチーは人生最大の決断を下す。

『もう日本ムリ!日本人恐い!世界に行こう!』と。

そう思いついた彼はすぐに行動に移し、ワーホリGETでいきなりカナダへと飛び立っていったのだ!

ここが間違いなく人生のターニングポイントになった。

 

旅立つムッチーを見て、俺たちはもの凄く心配した。

日本という平和の象徴のような素晴らしい国。その国の国民ですら、歩いてるだけのムッチーを見てボコボコしたくなる不快感を、いや、「こいつはボコボコにしなきゃいけない。みたいな使命感を人に与える男が、いきなり世界に飛びだしたら一体どうなるのかと。

 

死ぬでしょ。

そりゃ死ぬでしょ。

 

屈強の外国人相手にボッコボッコに撲殺される可能性が十分にあるでしょ。

もういつ殺されてもおかしくない。

俺たちはいつもビクビクしながら全国ニュースを見ていた。

しかし一向に訃報は届かない。

そう、ムッチーは俺たちの不安をいい意味で大きく裏切ってくれたのだ!

 

なんか外国人とは奇跡的にメチャクチャウマが合う!

 

そのおかげでムッチーは悠々自適な楽しい毎日を過ごしていた。

俺たちは安心した。心の底から安心した。

やっと安らぎを手にいれたのかと。普通の人が当たり前に味わっている平穏な暮らしをやっと手にいれたのかと。

このまま外国人と交流するような仕事ができたら天職なんだろうなと。

そんな生活を手にいれたムッチーは海外生活に味を占めた。

何気なく始めた海外生活は気がつけばカナダのトロントに1年7カ月。

その後グレイハウンドというバスで北米を3ヶ月以上かけて一周し20以上の都市を訪れる。

そしてキューバへ渡り、その後にオーストラリアへと移住先を変え、自由気ままに穏やかな日々を過ごしていた。

 

そんな生活を送るムッチーと俺たちは、少しずつ連絡も取らなくなっていた。

俺は安らぎを手にいれたムッチーを祝福する半面、少し面白くない気持ちの自分もいた。

 

「あー早くボコボコにされて面白いこと提供してくれんかなー」って思ってた。

 

そんな時、日本ではある出来事が起こった。

ムッチーの大親友であるKくんが結婚式を挙げることになったのだ。

その結婚式にKくんはムッチーを誘った。

しかし、やはり遠く地で生活をしている都合上、帰国することができなかった。

少しガッカリしたKくんを見て俺は、

「そうだ!サプライズで動画を送ってもらおう!」と考えたのだ。

 

俺はムッチーに連絡した。

「けい君の結婚式にサプライズムービーを送るから協力して!」と。

 

すると、いの一番で『もちろん!』と返事がくる。

さすが親友だ!これはKくん喜んでくれそうだ!

ワクワクしながら俺は、どんなムービーを取りたいかを簡単に説明した。

「結婚式の時に流す映像だから面白おかしくハッピーな映像をちょうだい!」と。

『オッケーオッケー!』と返事をもらい、数日後動画を送ってくれた。

 

「さーて、どんな映像かなー?」

 

その動画を再生した俺は硬直した。

 

映像に映し出されたのは、むき出しコンクリートに囲まれた薄暗い部屋だった。

 

 

スタートからツッコミどころ満載。

 

なんだよそれ…

 

どこだよそこ…

 

なんでそんなボロ工場のトイレみたいな場所で撮影してんだよ…

タイルとむき出しの管みたいなのが見えんだけど!

そこに突然、左からフレームインしてきた男。そう、ムッチーだ。

笑み一つ浮かべない表情で語りだした。

 

「ご結婚・・・おめでとうございます・・・」

 

 

おい。

 

おいおい。

 

どーしだんだよそのテンションは。

 

なんでそんなに憔悴しきった表情なんだよ。

 

一瞬「お悔やみ申し上げます」に聞こえたじゃねーか。

 

誰も死んでねーぞおい。

 

ちゃんと結婚式のお祝いムービーって説明したよね?

告別式の弔辞ムービーなんか頼んでないよね?

なーんかその後もブツブツ言ってる。

なんかずっとブツブツ言ってる。

まず何を言ってるか全く聞こえません。

何をそんなに囁いてんだよ。何でそんなウィスパーボイスなんだよ。

生理用品のCMですか?

夜用ウェディングですか?

天龍さんの方が何言ってるかわかるくらい何言ってるかわかんないよ君。

その後も映像に映る男は終始、全盛期の野村監督ばりにぼやき続け、その後カメラに向けて軽く会釈をすると、フレームアウトしていった。

 

これは大事件だ。

俺はすぐに連絡した。

 

「おいムッチー!俺説明したよな!これお祝いムービーだけん!Kくん結婚したんだけん!死んでないけん!頼むからさ、もっと笑顔で明るく陽気にお願い!」

 

言葉だけじゃ伝わらないと思い、俺はわざわざ「こんな感じ」ってのを自演したムービーを送ってやった。

すると、『ごめん、朝から撮ったからテンション低くかった(笑) 明日、録り直すね』と連絡がきた。

俺は安心した。

さすがにこれで大丈夫だろうと。映像付きで説明したし。

だって自分でもテンションが低かったのは自覚してたし。

次はちゃんとしてくれるだろうと安心して眠りにつきました。

そして翌日、取り直した動画が届いた。

その動画を見た俺は、再び硬直した。

我が目を疑いました。

その映像に映し出されたのは、あのむき出しコンクリートの部屋だった。

 

そこに左からフレームインしてきたある男。

 

 

デジャブやんけーー!!!!!

 

「まったく同じやん…俺の自演したサンプルムービー、何一つ役立ってへん…」

 

久しぶりに震えた。会いたい気持ちを抑えきれずにじゃなく、怒りで震えた。

笑み一つ浮かべない表情で語りだした。

 

「ご結婚・・・おめでとうございます・・・」

 

これさ、間違って前回と同じ映像を送ってきてないか?

 

そう疑うほど瓜二つの出来栄えだったのだが、よく見ると前回のが表情の柔らかさが10段階で"1"だとしたら今回が"2"くらい、声の大きさが2だとしたら3くらいには改善されている。

 

うん、てゆーかさ。

 

いちいち言わなくてもわかると思ったんだけどさ。

 

アナタはオーストラリア在住ですよね?

 

まずなんでその部屋をチョイスしたんだよ!

 

普通オーストラリアいるんだったら外で撮ったりしないのか!

海とかさ、町とかさ、もっといい背景あるでしょ間違いなく!

なのに何でそのむき出しコンクリートの薄暗い部屋。

そこに憔悴しきった無表情の男がフレームインからのウィスパーボイス。

 

 

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なんか見た事あると思ったら完全に映画SAWで見たことあるシーンじゃねーか!

 

お前、絶対にジグソウに監禁されてるだろ!!!

 

 

絶対ジグソウになんか言わされてるんだよきっと。

まさかオーストラリアで監禁されてるとは。

そのまま何の変化もない弔辞ムービーは何のハッピーさもなく終了したのだ。

もちろんこの映像が晴れやかな式場の舞台で流れる事はなかった。

彼は海外に移住した事により、人に殴られない代わりに悪魔に魂を売り渡してしまったのだろうか?

しかし、彼の波乱に満ちた誰も予想しないゲームの結末は、

まだまだ始まったばかりなのだ。【続く】

 

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