笑説は事実より喜なり

笑説家 ヤマウチツヨシ/岡本太郎氏の『用心深く、いや臆病に今までの使い古されたパターンをなぞって何になるか』という言葉に感銘を受け、使い古されてないパターンのブログはじめました。

親の心子知らず、子のセンス親知らず

 

夜中に豪雨が降るが朝方には止み、昼にはカンカン照りに晴れ、そしてまた夕方には土砂降りの雨が降る気まぐれな天気となった日曜日。

入籍したばかりの僕たち夫婦は、そんな気まぐれな天気に左右されることなく、夫婦として初めてのデートを楽しんでいる時だった。 突然、僕の携帯電話が鳴り響いた。それは姉から届いたLINEの呼び出し音。

携帯電話を開くと、そこにはメッセージと共に画像が貼られていた―。

 

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あれはたしかHIPHOPに夢中だった18歳の頃だった。

いや、厳密に言えば今でもHIPHOPは好きなのだが、HIPHOPファッションに身を包むことはなくなった。今とは違う「HIPHOP好き」というのが一目でわかるようなラッパー風のオーバーサイズばかり着ていた時代、ある郵便物が俺宛に届いた。

送り主は、父親だった。

父親は俺が幼少期の頃に母親と離婚していた。久しく会っていない親父から俺宛に届いた段ボール。あまりハッキリと覚えていないが、たしか誕生日の前だったような気がする。

俺は別に父親のことが嫌いではなかった。

母親を残して出て行った父親に怒りの感情が湧かなかったのも、たぶん母親のおかげなんだろう。出て行った父親のことを悪くいう事が一度もなかったからだ。 それに小学生低学年の頃は、年に一度か二度くらいの頻度で会っていたので、ずっと父親は単身赴任なんだと思っていたと記憶している。

でも小学高学年になった頃には、両親が離婚していることは理解した。そして年に数回会っていた頻度は次第に減少していき、中学・高校時代には親父に会う事もなくなっていった。

決して全く疎遠になったというわけではないのだが。

そんな親父からのなんの前触れもなく届いた俺宛の郵便物。

単純に嬉しかった。

そこに会話があるわけではないのだが、父親が今でも自分のことを気にかけてくれているっていうのが感じ取れて、何とも言えない不思議な気持ちになったのだ。

荷物が届いたというただそれだけで満足したから、中身なんて何も期待していなかった。「なんか食べ物かな」くらいの軽い気持ちで開封して箱の中身を取り出した途端、

俺はフリーズした。

 

 

送られてきたのは食べ物ではなく、胸に「PIKO」って文字がデカデカとプリントされたトレーナーだったのだ!

 

 

 

 

うわあああああああああああああ!!!!!!!!!!

 

 

しかも体操服みたいなデザインとカラーリング。両手にその体操服似のトレーナーを持ったまま、俺は叫んだ。

まるで映画「セブン」のラストで小包を開けたブラッドピットのように―。

 

 

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うわあああああああああああああ!!!!!!!!!!

 

 

それはそれは自分の名前が「ピコ」なんじゃないかっていうくらい、前面にデカデカとプリントされているのだ!

もうダサい!この上ないくらいダサい!

さらにその当時、オーバーサイズしか着ていなかった俺が激しく拒絶する表示が目につく!

首元のタグからチラリと顔を覗かせる、衝撃のイニシャル「S」の2文字が!

 

 

 

 

ええええええええええええええす!!!!!!!!!!

 

 

俺は叫んだ。まるでミスチルの【es】~Theme of es~ を熱唱する桜井和寿のように―。

 

いや、勘違いして欲しくないのは、別に「PIKO」が悪いって責めてるんじゃない。「PIKO」だってれっきとしたハワイ生まれのサーフブランドだ。

俺の個人情報を聞きつけた父親がもしかして「これってヒップホップじゃね?」と思って買ったのかもしれない。ファッションや音楽に疎い父親の中では、「これぞ男のヒップホップ!」と思ったんだろう。

ただ、いかんせんダサい。その父親のセンスにこそ問題があるのだ!

そして俺のファッションがオーバーサイズばかり着ていることを知らないかったのは、まだしょうがない。その当時、「XL」を好んできていることは知らなかったとしよう。

がしかし、「S」はないだろう!

18歳の息子に、PIKOのSはないだろう!

これ小学生じゃん!

全然、俺のサイズ感わかってないじゃん!

少年時代の俺のイメージのサイズ感で買うんじゃないよ!

ショップの店員も止めろよ!そんなに売り上げが大事か!

 

一応着てみた。

 

ビッタビタやんけ!

 

デッカデカのプリントにビッタビタやんけ!

 

それに僕は割と肩幅が広いもんだから袖が七分丈くらいになってるし!

力仕事なんかする時に腕まくりして張り切ってる奴みたいになってるし!

張り切ってないし!むしろテンション下がってるし!

たしかに僕は中一まで身長が145㎝しかなかったし、母親も150㎝くらいで父親も160㎝くらいだったから、「そんな大きいはずないだろー」て感じで買ったんだろうな。

 

『親の心子知らず。がしかし、子のサイズ親知らず―』

 

という言葉が深く心に刻まれたあの時の衝撃は、大人になった今でも鮮明に覚えている。そして、「親が子供の洋服を独断で買ってあげるのは小学生まで」ということを悟った時だった。

 

あれから十年以上の月日が流れた。

夜中に豪雨が降るが朝方には止み、昼にはカンカン照りに晴れ、そしてまた夕方には土砂降りの雨が降る気まぐれな天気となった日曜日。 入籍したばかりの僕たち夫婦は、そんな気まぐれな天気に左右されることなく、夫婦として初めてのデートを楽しんでいる時だった。

突然、僕の携帯電話が鳴り響いた。それは姉から届いたLINEの呼び出し音。

携帯電話を開くと、そこにはメッセージと共に画像が貼られていた―。

 

 

姉「母があなたに洋服買ってきたよ」

 

 

そこにはドッド柄のポロシャツが写されていた。

 

 

そのドッドひとつの大きさが野球ボールくらいのでかさだった。

 

 

うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉい!!!!!!!!!!

 

 

俺は一体いくつなんだよ!!!

 

もうすぐ齢三十三歳だぞ!!!

 

サーティワンアイスクリームが好きなサーティスリーだぞ!

マジかよ!

息子の洋服を親が自分の判断で買ってくるお年頃じゃねーだろ!

引きこもりニートか俺は!働いてるわ!結婚もしたわ!

 

ま、まぁ実家の近くの商店街で僕の先輩がやってる古着屋さんがあって、そこで買ってきたらしいけど。その先輩の所にはたまに行くから、先輩は俺の好みがわかってるのよ。

スタッズとか迷彩とかヒョウ柄とか好きでさ。で、そうそう確かにドットは好きなのよ。

でもさ、、、、

 

ドッドがでかすぎるだろーが!!!

 

デザインが秀逸すぎるドッドじゃねーか!!!

 

ダルメシアンモデルか!

 

それとも牛モデルか!

 

しかも若干、体操服っぽいし!

なんなのうちの家系!

なんなのこの安定の体操服一家!

独断と偏見でアパレル買うのやめませんかね!

ショップの店員も止めろよ!そんなに売り上げが大事か!

 

て俺の先輩じゃねーか!!!

 

てゆーか大体なんでいきなり息子に服を買ってきたんだよ。

今まで一度もないのに・・・

その時にフッと思った。

 

「もしかして母親なりに息子の入籍のお祝いをしてやりたかったのかな・・・」

 

何か自分にできることはないかと考えて、買い物でよく使う近所の商店街に行った時に俺の先輩に会い、そこでプレゼントの相談をしたんじゃないのかって。

忘れていた大切な気持ちを思い出した。

そうだ、昔は親が自分のことを気にかけてくれているっていうのが感じれただけで、何とも言えない不思議な気持ちになったじゃないか。

それがどんなものあれ、単純に嬉しかったじゃないか。

 

『親の心子知らず―』

 

母親のやさしさに触れ、いま一度、親のありがたみに気づかされて、久しぶりに胸がギューっとなった。

 

あ、つまり牛モデルだコレ。