あなたは運命の出会いを信じますか?
時として訪れる運命の出会い。それは偶然なのか、それとも必然か。 その出会いは、今後の人生を大きく変えるきっかけになるのかもしれません。
しかし、運命を受け入れられず逃れようとした瞬間に、人は奇妙な世界の扉を開けてしまうのかもしれません。
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2016年1月2日。新年早々、あんな凄い出来事があるとは思いもしなかった。あんな衝撃的な出会いをすることは二度ないだろう。
あの日、俺は朝から中学校の同級生たちを母校に呼び出していた。それは3月に予定している自分の結婚式で仲の良い同級生たちと一緒に写った「今と昔のビフォーアフター」みたいな写真を撮りたかったから。
いま思えば、あの日は朝から"良いこと"だらけだった。
去年から撮影を計画していたが、なかなか友達との予定が合わず、もう撮影は諦めかけていた。 しかし、いきなり1月2日に皆の都合がついたのだ。家庭を持っている友達ばかりなので、新年早々会えることになったのは奇跡に近い。
さらに撮影日の天気予報は雨だったにも関わらず、当日は素晴らしいほどの晴天。
そして、肝心の写真撮影。
撮影は美容師をやっている友人のイマムに頼んでいた。 彼は仕事上でカメラも扱う事が多いため、いい写真を撮ってくれるだろうと撮影をお願いをしていたのだが、彼も同じ中学の同級生だ。 できれば一緒にフレームの中で写ってほしかったが、撮影者がいないと話にならない。だからそこは諦めて彼に撮影を続けてもらっていたら、学校の中から知らない先生が近づいてきた。
「君たちは何をしてるんだ」と最初は俺たちを不審者扱い。
しかし、事情を説明するとすぐに状況を理解してくれて「この学校のOBなら協力しましょう。私が写真撮りますよ」と、快く撮影まで行ってくれたのだ。
しかも、イマムが撮った写真より綺麗に撮れている。何だコイツは。
たまたま近づいてきた先生に頼んだのに、何だコイツの才能は。
これが俗にいう『「何だよこのおにぎりタンクトップは…」とか思いながらも、純朴なヤツなんで優しく接していたら、去り際に素敵な油絵プレゼントしてくれて「えっ…キヨシさんって、まさかあの山下清先生?」みたいな野に咲く花のように状態』ということに気づいた人は、もちろん俺以外に誰もいなかった。
とりあえずお礼に各自持ち合わせていたオニギリを清先生に渡すと、先生はオニギリを頬張りながらタンクトップに着替えるため体育館へ一旦帰っていったのだが、もちろん戻ってくる前に捲いてやった。
それにしても今日はなんかとても良いことが続いてる。
そしてこの後にもっと凄い運命の出会いがあるんだ・・・
撮影も終わり一息ついていると、誰かが「せっかくの新年だから皆で初詣に行こうぜ」と言いだした。それは名案だとなり、そのまま近くの神社に初詣に行くことに。
神社は新年早々だけあって、人がもの凄かった。参道から神社を埋め尽くす人混みをかき分け、簡単にお参りを済ませると、参道の横にお店を構える老舗のお茶屋さんに甘酒を買いに行った。
寒空の下、温かい甘酒が心にスーッと染み渡る。
店の前に置いてあった長椅子に一人分ほど座れる場所ができたので、そこに友達のケンタロウが座った。 他のメンバーはその長椅子の近くに立ったまま談笑。
他愛もない話で盛り上がっていると、俺は何か視線を感じた。
ふと横に目をやると、そこに一人の"お婆ちゃん"が立っていた。
綺麗に着飾った身なりのお婆ちゃんだからひときわ異彩を放っている。
そのお婆ちゃんは俺たちのすぐ近くで、手に甘酒のカップを持ったままずっとこっちを見ている。お婆ちゃんの視線の先を確かめると、そこには長椅子に座るケンタロウがいた。
俺は悟った。そうか、お婆ちゃんは椅子に座りたいんだ!
体の半分は優しさで出来ているバファリン俺は、すぐお婆ちゃんに寄り添い、そしてケンタロウに言った。
「おいケンタロウ!お婆ちゃんがずっと立ってるじゃないか!座らせるんだ!なんで気づかないんだよ!なんでそんなに鈍感なんだよ!お前はあれか!名探偵コナンの刑事たちか!小五郎の代わりにコナンが後ろで話してんだよ!なんで誰も気づかねーんだ!よく見ろよ!小五郎の唇が一切動いてねーだろ!話せるわけねーだろ!いっこく堂以外無理だよ!むしろいっこく堂スタイルで語る必要がねーだろ!てゆーか最近のいっこう堂痩せすぎなんだよ!心配だよ!いや待てよ、そもそも殺人現場に簡単に子供たちを入れるな!おいコナン!テメーどんだけ殺人事件に遭遇してんだよ!死神じゃねーかオイ!お前は家から一歩も出るんじゃねーよ!そういうことだぞケンタロウ!鈍感な奴はモテないぞ!わかったか!はい、お婆ちゃん、コチラへどーぞ!」
と、声が遅れて聞こえたにも関わらず、すぐに状況を理解したケンタロウは立ち上がろうとしたらお婆ちゃんが言った。
「違うのよ。座りたくて見ていたんじゃないの。あなたは熊本の方?」
俺の腹話術は一体何だったのか。
ケンタロウが「今は東京に住んでるんですけど、出身は熊本です」と答えると、「やはり東京の方ね。お仕事は何をさせている方なの?」とお婆ちゃん。
次に飛び出したのはケンタロウ渾身のギャグ「僕、芸能界で働いてるんですよ~」。
くそつまらないボケだ。よく新年早々そのフレーズで勝負した。感動した。その勇気にはお年玉をあげたい。
もちろんお婆ちゃんはクスリとも笑いもしなかったが、ものすごい勢いで話に食いついてきた。
お婆「ねえ、どこの事務所の方?」
えっ、もしかしてこのお婆ちゃん、芸能関係の人なのか?
見た目もちょっとアパホテルの社長っぽいし、もしかしたら凄い人なんじゃないかと思える話し方・・・
まさかジャニーズのメリーさんかジェリーさんかマッチさん!?
SMAPの後継者選びに熊本にやってきて"熊本の長瀬智也"と呼ばれ、ローカル雑誌「NO!」の女子高生が選ぶ「卒業して欲しくない男 第一位」に選ばれたMr.ベストノットグラデュエーション二ストのケンタロウくんに猛烈スカウトなのか!?
ケン「すいません嘘です。アパレル関係の仕事してます」
即修正しやがった。そらそうだ。これはビッグオファーの可能性もあるからね!
お婆「あらそうなの。でもね、貴方は凄いオーラが見えるわ。熊本でこんな人なかなかいないもの」
ここで話を横で聞いていた俺たちはニヤニヤし始める。
おっとこれはもしかして、変な人に引っかかっちゃったんじゃねーのかと。
お婆「あなた熊本の高校はどちら出身?」
ケン「濟々黌です」
お婆「あら、やはり濟々黌なのね。それにしても凄いわ。今までいろんな濟々黌の人見てきたけど、こんなオーラがある人みたことないわ」
ほう、濟々黌高校だとオーラがあるんだな。
その中でも群を抜いてもの凄いオーラがケンタロウからは放たれてるのか。
お婆「あなた今のアパレル関係の仕事をずっと続けなさい。もの凄い大成するわ」
ケンタロウはメッチャ褒められてた。本人も別に褒められてるんで悪い気はしないっぽい。お婆ちゃんはケンタロウを褒めるだけ褒めちぎると、次は隣にいた上原という友達に話しかけた。
お婆「あなたはお仕事は何をされてるの?」
上原「僕JAで働いてます」
お婆「なんでJAで働いてらっしゃるの?」
上原「なんでって特に理由はないですけど。高校卒業してからずっと働いているんで」
お婆「あなたは夢はお持ちじゃなかったの?」
上原「夢とかなかったですねー。だからJAで働いてるのかもしれません(笑)」
お婆ちゃんは凄い驚いた顔をした。
お婆「なんで夢がないのよ!貴方も濟々黌でしょ?」
上原「いや、僕は鎮西です」
お婆「あー鎮西かー。だからね(納得顔)」
だからなんかーーーーーい!!!!
鎮西だったら納得かーーーーい!!!!
鎮西OBは夢ないんかーーーーい!!!!
待て待てお婆ちゃん、それは偏見だよ。
いまはダンスコースもあるんだよ!凄いオシャレな学校だよ!制服も可愛いよ!
そんな言い方すんなよお婆ちゃん!
若干落ち込む上原。でもお婆ちゃんの起死回生のフォローが入る。
お婆「でもね、あなたの話してみたら、わかったわ。今の仕事はもの凄く合ってるわ」
やったな上原!褒められたよ!
夢がないからなんとなく就職した会社がお前には合ってるんだ!
よかったじゃないか!夢があったら、それを追いかけてたら、絶対失敗したってことだぞ!
よかったじゃないか!高校卒業してから同じ職場一筋で16年間も働いてるなんて凄いぞ!
絶対に合ってるんだよその仕事が!よかったな夢がなくて!
なんだかんだで褒めらた(はず)の上原の次は、俺に話しかけてきた。
お婆「あなたお名前は?」
俺「ヤマウチツヨシです」
お婆「高校はどちら?」
俺「熊工です」
お婆「あらそうなの。何科でいらっしゃった?」
俺「土木科です」
お婆「お母さんの名前教えてくださる?」
俺「えっ、母ですか?福代です」
そしてお婆ちゃん、ちょっと考え込む。
お婆「あなたね、何か夢があるでしょ?やりたいことがあるでしょ?」
俺「はい。まーありますね」
お婆「あなたはその夢を追いかけなさい。追いかけたら必ず成功するわ。必ずよ」
なんだこのお婆ちゃん、スゲー嬉しいこと言ってくれるじゃんか!
そんな感じでそこにいた友達全員がそのお婆ちゃんに質問されてアドバイスをもらった。
質問の内容はそれぞれで、仕事・出身高校あるいは中学校、家族構成、親の名前、子供の名前など、その相手によって変えてくる。
とにかく話の間の使い方とか、言葉の選びのセンスとか、質問の内容とかも相手によって違うのが、やけに説得力がある。
別の友達なんか、「あなたは今年月収が10倍にあがる可能性があるわ。でもね、もう今日からライバルたちは走り出してるわよ。あなたはどうするの?」とか、すげー言葉のチョイスが秀逸で響く。
最初は半信半疑どころか無信全疑だった俺たちだが、状況が変わってくる。
「この人ってもしかして本当にスゲー占い師なんじゃねーか・・・」
そうみんなが思い始めた時、もう一つ凄いことに気がついた。
俺たちは六人ぐらいでいたんだけど、一度しか話していないのに全員の名前を完璧にフルネームで覚えているのだ。
俺達の名前はおろか、質問されて答えたことは一回で全部記憶しているのだ。
一語一句間違わず全員分を。
たぶんここにいる全員が覚えるの無理だと思う。初めてあった人の名前だけならまだしも、親の名前や子供の名前や家族構成や出身校を全部覚える事なんて。
そのあまりの記憶力の凄さに気づいた時に、お婆ちゃんの言葉はさらに説得力を増してきた。
俺はおもわず聞いた。
俺「お婆ちゃんよく覚えれますね?何歳ですか?」
お婆「私は75歳よ」
マジで驚愕した。75歳でこの記憶力かよ!
その後もお婆ちゃんは僕たちにたくさん助言してくる。
とにかく言い回しが上手で島田紳助ばりに弁が立つ。
次第に俺たちはお婆ちゃんの魅力に完全に引き込まれていた。
最後の方にはもう百信零疑に変わっていた。
俺たちの方から悩みを相談してアドバイスをもらってたくらいだ。
出会ってから三十分くらい話したと思う。
そして各自予定があったため、そろそろ行こうかとお婆ちゃんに別れを告げることにした。
みんながお婆ちゃんに感謝を伝えると、最後にこう言った。
「私はね、今日は家でゆっくりしているつもりだったの。でも神のお告げがあって今日ここにきたの。その理由はわかったわ。あなたたちに出会たことだったのね。あなた達に未来を伝えるためにここに呼ばれたんだわ」
そう言われた時、俺たちは誰一人疑っていなかった。だってたぶん本物の占い師だと思っていたから。
そうかお婆ちゃん、神のお告げがあってここにきて、俺たちにアドバイスをすることが今日の目的だったのか。
うん、お婆ちゃん、たぶんあなたは本物だよ。本当になにか見える人なんだろう。
「ありがとうお婆ちゃん!新年早々とてもいい気分にさせられたよ!」
俺たちはお婆ちゃんに最大限のお礼を伝えて別れた。
車を停めていた駐車場へ向かいながら、みんなでお婆ちゃんの凄さで盛り上がる。
「マジで凄い!」「あれは本物でしょ!」なんて話していたら、一人いないことに気づいた。
そう、言い方変えれば「女子高生が選ぶ留年して欲しい男 第一位」の必ず大成する男・ケンタロウがいない。
振り返るとお婆ちゃんと二人で話しているではないか!
さてはケンタロウ、本気でお婆ちゃんの凄さに虜になってしまったんだな!
抜け駆けかよ!ずるいなおい!
まーしょうがない。あんな凄さを見せられたからな。
俺たちのお墨付きだよあのお婆ちゃんは!本物だからな!
ケンタロウはお婆ちゃんと会話を終えると、走って俺たちに追いついた。
すると上原が「ケンタロウ、あのお婆ちゃんに心酔したろ?」と語気を強めて聞く。
さすが「占い師が選ぶ夢がなさそうな男 第一位」の上原だ。
べた褒めされたケンタロウにヤキモチを妬いてるのだろう。
「いやいや、そんなんじゃないよ。お婆ちゃんが名前の漢字教えてって聞いてきたから名刺を渡して少し話してただけ」と答える。
「でも本当に凄いよねあのお婆ちゃん。最後に名前を聞いたら“みやた○○こ”て教えてくれたよ」
ケンタロウがそう言うと、ノードリーマー上原が「ねえ、あのお婆ちゃんってマジで凄い占い師なんじゃねーの?俺たち凄い人にたまたま出会ったんじゃねーの?」と言いだした。
いや、確かにそうかもしれない。誰もがそう思ってた、誰もが。
「ちょっと名前わかったけん検索してみよう!」
上原が携帯を取り出す。グーグルで検索する気だ。
本当に便利な世の中になったもんだ。携帯ひとつで疑問はすぐに解決することができるから。
「いや、本当にもしかしたら凄い人の可能性あるな」「超有名人かもしれんね」と盛り上がる俺たち。
なんか本当に今日は一日良いことだらけだなーなんて話ながら歩いていたら、上原が突然立ち止まった。
固まる上原。おい無夢原、なんで立ち止まってんだ?
「ちょっ、、、、これ、、、、えっ、、、、、」
皆が不審がる。どうしたんだ?
「あっ、いや大丈夫だ!59歳て書いてある!あのお婆ちゃん75歳て言ってたもんね!」
一人で話して一人で納得している。するとまた慌てだす。
「いや違う!これ2000年って書いてあるから絶対にそうだ!」
いやだから何を一人で騒いでるんだよお前は。そんなんだから夢がないんだよ。
「一体携帯に何が書いてあったんだよ」と俺が聞いた。
すると上原くん、顔色が真っ青になりながら、携帯を見せてくれた。
そこに書かれていたことに、俺たちは言葉を失った。
【熊本幼児遺体切り取り事件】2000年5月28日
熊本市で起きた、男児を生き返らせるためとして遺体をはさみで切るなどした事件で、死体損壊の疑いで逮捕されている自称超能力師、宮田○○子容疑者(59)は調べに対し「天言があった」と供述していることがわかった。 宮田容疑者によると男児の遺体は「真の呼吸は続いている。中から新しく生まれ変わる」という「巣ごもりの状態」で、皮膚をはげば復元できるとし、遺体をはさみで切って皮をはぐなどの方法をとったことについて「天言があった」と話し「警察のせいで邪気が入り、男児は亡くなった」としているらしい。 また、宮田容疑者は男児が亡くなる前、両親に病院に行かないよう、薬を飲ませないように指示をしていたとみられ、保護責任者遺棄致死の疑いも持たれているという。
人生で初めて背筋がゾッとした。
もちろん同一人物かはわからないが、出身地・名前・年齢・超能力者という点でここまで一致する人物はそういないだろう。
俺たちは立派な大人だから、まさか洗脳なんかされるわけないと思うじゃん。
そんな俺たちでもここまで引き込まれたお婆ちゃんの手段を振り返ってみる。
まずお婆ちゃんは自ら話しかけてこなかった。困ってるのかなと思って俺から話しかけた。 もしあの時に向こうから話しかけてきていたのならば、もう少し俺たちの警戒心が強くて状況は変わっていただろう。
次に、自分から「私は占い師だの超能力者だ」というような言葉は一切使わなかった。 ただ話の内容に引き込まれた俺たちが勝手に「この人凄い能力者じゃないのか」と思っただけである。
そして最後に、自ら連絡先を聞いてきたりとか勧誘してきたりとかはしなかった。
ここでなんか誘って来たりしたら、もう怪しいでしょ。でも誘ったりしなかった。 恐らくだけど、洗脳なんか絶対されない自信がある俺たちですらここまで魅了されたんだ。 もし何か悩み事を抱えていたりしている人だったら、すぐにこのお婆ちゃんの力を信じて頼りそう。
だからそういう人は、誘わなくても自分から連絡先を聞いてくるんじゃないかと。
そう考えると、ますますあのお婆ちゃんが恐くなった。
「本当に危なかったな・・・」なんてみんなで怯えていたら、ふと何かを思い出したかのような表情で立ち尽くす男がいた。
「あっ・・・」
そう呟くと、その男の顔色がみるみるうちに変わっていく。
立ち止まった男に俺が声をかける。
「おい、ケンタロウ!どうしたんだよ?」
男は振り絞るように声を出した。
「やべぇ、俺、電話番号書いてある名刺渡した」
【終】