笑説は事実より喜なり

笑説家 ヤマウチツヨシ/岡本太郎氏の『用心深く、いや臆病に今までの使い古されたパターンをなぞって何になるか』という言葉に感銘を受け、使い古されてないパターンのブログはじめました。

先輩が語っていた夢の話

 

『君には無理だよ』という人の言うことを、聞いてはいけない。

 

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昔、俺が働いていた職場に"トモさん"という優しくて可愛らしい先輩がいた。

とても愛想が良く誰とでも仲良くなれる人で、職場の皆から「トモちゃん」と呼ばれてメチャクチャ愛されている人だった。その先輩と俺は同じ業務の仕事を担当することになった。

外回りをする移動中の車内はいつも二人だったから、毎日いろんな話をしていた。当時の俺は将来の夢や目標もなく、クラブに行っては飲んで歌って騒ぐだけが楽しみの生活だ。 先輩に話していた話題も、ほとんどが酒や女の子の事やライブの話ばかりだったと思う。年下のくだらない話でも、先輩は嫌な顔ひとつせずにいつも笑顔で聞いてくれていた。

そして、先輩はいつも俺に「夢の話」ばかりをしていた。

「ずっと追いかけてる夢があるんだ。凄い役者さんになりたくて」

家族や友達でもない職場のパートナーというだけの俺に、恥ずかしげもなく将来の夢を熱く語ってくれる。 「あのドラマのあのシーンが凄い」とか「あの映画のあの台詞がカッコいい」とか「あの女優のあの演技が凄い」とか、目をキラキラ輝かせながら演技の話をしていた。 将来のことなんて何ひとつ考えていなかった俺は、そんな先輩が羨ましかったが、それ以上に憎らしくもあった。

会話をするたびに先輩が大人に見えて、自分が子供のように思える。自分の弱さや虚勢を張って生きているのが見透かされてるような気がして、とても悔しかったんだ。

そして俺は、先輩の優しさにも甘え始めて、次第に態度も傲慢になっていった。

ある日、いつものように嬉しそうに夢を語る先輩に対して、俺は声を荒げてしまった。

 

「じゃあ熊本いないで早く東京行けばいいじゃないすか!こんなとこで熱く語っても意味ないでしょ!」

 

数日後、先輩は上司に会社を辞めると言った。

「君のおかげで東京に行く決心がついたよ!ありがとね!」と、アイドル顔負けのとびきりの笑顔で俺に別れを告げ、一か月後には会社を辞めて夢を追いかけに東京へと旅立った。

その当時の先輩は三十歳だったから「もう遅くない?今から大丈夫?結婚とか考えないの?」と心配したが、すぐに「まーどうせすぐ諦めて帰ってくるだろうな」と先輩の決断を軽く馬鹿にしている自分がいた。

凄く恥ずかしいことなのだが、当時の俺は"夢に向かって頑張っている人"を素直に応援することができない人間だったんだ。

 

あれから八年の月日が流れた。ふと、先輩のことが気になった。

 

東京に行く決断をした時に素直に応援できなかった後ろめたさもあった俺は、連絡することを躊躇した。向こうにもあまり良く思われていないかもしれない。

でも、俺は勇気を出して繋がるかもわからない先輩の番号に電話した。

「もしもし」

すぐに先輩の声だとわかった。

「トモさんですよね?山内ですけどわかりますか?」

「わかるよ!ツヨシ君だよね?元気してる?」

まるでタイムスリップしたかのようだった。昔と変わらない愛想の良さが、話し声だけでも感じ取れた。

「今度、東京に遊びに行くから会えませんか?」と聞くと「わかった」と言ってくれて、東京の喫茶店で再会することができた。

 

店に入りテーブルに着くと、先輩は「タバコ吸ってもいいかな?」と申し訳なさそうな顔で聞いてきた。

昔から煙草を吸っていたのかもしれないのだが、記憶が曖昧だったために吸ってない人だと思っていた。少し驚いたが、悟られないようにすぐ「大丈夫ですよ」と返事をした。

バッグからおもむろにマルボロを取り出し、慣れた手つきでタバコを吸いながら現状を話してくれた。

 

先輩は今もずっと役者として有名になるために頑張っていた。

 

話を聞くと、去年のNHK大河ドラマにも出演したらしい。そして今年は、北野武監督の映画「アウトレイジ3」の出演が決まって、撮影が終わったばかりだと嬉しそうに話してくれた。

あんな怖い人達ばかり出てる映画に一体どんな役で出るんだろう? キャバクラで働いてる人の役かな?とにかく好きな映画なんで凄く楽しみだ。

「少しずつだけど夢に近づいてるかな。八年もかかっちゃったけど。遠回りしすぎたからもう結婚できないかもね(笑)」

そう笑って話す先輩の表情は、あの頃とちっとも変わっていなかった。 唯一変わったことは、その話を聞く俺の感情だろう。

目を輝かせながら夢について熱く語る姿は、同性とか異性とか関係なく、とにかくカッコよかった。あの頃は先輩の話を馬鹿にして聞いていたが、今はただ尊敬の気持ちで真剣に耳を傾けていた。

そして、そんなトモさんの成功を心から願い、本気で応援したくなった。

 

ふと、NBAのレジェンドであるマジック・ジョンソンの言葉が頭をよぎる。

 


 

『君には無理だよ』という人の言うことを、聞いてはいけない

多くの人が、僕にも君にも「無理だよ」と言った 彼らは、君に成功してほしくないんだ なぜなら、彼らは成功出来なかったから 途中で諦めてしまったから だから、君にもその夢を諦めてほしいんだ 不幸な人は、不幸な人を友達にしたいんだ

決して諦めては駄目だ 自分のまわりをエネルギーであふれ しっかりした考え方を持っている人でかためなさい

自分のまわりを野心であふれ プラス思考の人でかためなさい 近くに誰か憧れる人がいたら その人に、アドバイスを求めなさい

君の人生を、考えることが出来るのは君だけだ 君の夢がなんであれ、それに向かっていくんだ 何故なら、君は幸せになる為に生まれてきたんだ

 

 

そう、俺はいつの間にか"夢に向かって頑張っている人"ほど応援できる人間になっていた。

それは多分、自分のまわりをエネルギーで溢れ、しっかりした考え方を持っている人で固めてこれたから。 それは多分、自分のまわりを野心で溢れ、プラス思考の人で固めてきてこれたから。

東京で夢に向かって頑張っているすべての友人達を心の底から応援してるし、尊敬してる。 だからもし、俺が夢に向かって進みだした時は、皆にも応援してほしいなと思った。

自分の成長に気づかされ、そして自分も頑張るぞという気持ちにさせてくれた東京での再会。

本当に大人になった今、先輩と話せてよかった。

 

1時間ほど話したところで、先輩は次の予定が入っているらしく、ここでお別れをすることになった。

テーブルのマルボロと伝票を手に取り会計へと向かう先輩。

ふと灰皿に目を向けると、すでに10本くらいの煙草がその役目を終え、無残な姿で横たわっていた。

「トモさん、かなりのヘビースモーカーなんだな」と少し驚きつつも、すぐに僕は先輩の後を追いかけた。

「トモさん何やってんすか。俺が誘ったんだから俺が払いますよ!」と言い伝票を奪おうとすると、「いーよいーよ気にしないで」と俺の手を払いのけた。

このままじゃいけないと思い、俺は今日一番の大きな声でこう言った。

 

 

「いや、俺は自分のルールがあるんです!女と後輩には絶対お金を出させないって!」

 

 

するとトモさんは一瞬黙った後、大笑いしながらこう言った。

 

 

「どっちも当てはまってねーじゃねーか!じゃあ俺、先に帰るよ!」

 

 

 

あ、本文と写真はまったく関係なく、トモさんって香川照之激似のおっさんですよ。